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それは先人からの贈り物

監督インタビュー『まちや紳士録』

 高度経済成長期以来、効率優先のスクラップ・アンド・ビルドの思想のもと壊されてきた多くの伝統的な町並みの中で、かろうじて残った町並み保存地区(全国で104件)の一つ【福岡県八女(やめ)市八女福島地区】。
 ヒト・モノ・コト…地域コミュニティのあり方が見つめ直されるなかで、空き町家の再活用に取り組む人々、修理される町並み、建築の伝統技術を次の世代に伝えようとする人々の町への想い、そして移住を希望する若い一家…約100戸の町家が軒を並べ、1世紀、2世紀に及び、ゆるやかな共同体を育むことにより町並みと伝統を守ってきたこの地での【命をつなぐ営み】の記録。

伊藤有紀監督スペシャルインタビュー

東京から八女(やめ)に移り住まれたことで、この映画を撮られたと伺いました。田舎暮らしに違和感などはありませんでした。

元々三重県の田舎の出身なんです。田舎が嫌で東京に行ってから11年くらい映像の仕事をしていたんですが、都会もしっくりこなくて。そんな時に旅番組の仕事で福岡ロケで知り合った人から「(博多で仕事を)手伝ってくれませんか?」と声をかけられたんです。その時は都会暮らしが合わないなって薄々思っていた時だったので、話に飛びついたというか(笑)。それで博多に引っ越しまして、どんどんどんどん田舎の仕事が増えてきて八女の人とも知り合っていって…。だから、そうですね、田舎暮らしに違和感とか戸惑いというのはあまり感じませんでした。

都会のどういうところが合いませんでしたか?

合わないというより、今思えば、当時の僕みたいなただ田舎が嫌で出てきた人たちにとって東京は「街」ではなかったんですよね。街を歴史の流れの中で捉えずに、その場所のでのし上がるための「箱」として見ている。
たとえば地方で町づくりしている方っていうのは、その歴史とかどういう経緯で建物があるとか、どういう人が住んでいるとか、ひとつの流れで土地をとらえていると思うんです。今、東京っていうのはその場所でのし上がるための「箱」というか、働くために住むための「箱」がいっぱいあるだけっていう感じなんです。もちろん東京でも町づくりをされているかたはいらして、その人たちにとっては東京はただの「箱」ではなく地元だったり、愛すべき町なんですよね。当時の僕はたぶんそれが嫌でというか、なんとなく「これは違うんじゃないか」って思って、東京からも出ちゃったんじゃないかなって…今なら思うんです。人の顔が見えて歴史が感じられる町って思えなかったから、「つまんないなこんな暮らし」と思っちゃったのかなって感じます。

このドキュメンタリーを通じて、どのようなことを感じてもらいたいと考えていらっしゃいますか?

八女のような町は少ないとは思うんですけど、でも僕は「古いものを残しましょう」「残せば良い」っていうことを言いたいわけではないんです。この映画を観て、たとえば「最近おばあちゃんち行ってないから、顔見に行こう」とか「お墓詣り行かなきゃ」とか。「町並み保存!」とか「町屋保存!」とかじゃなくて(笑)、都会にいると忘れてしまいがちなことをちょっとだけ思い出してもらえたらなって思っていて。神戸は港町だし、外国にも開かれているし、そこに住む人の気質も洗練されていますよね。でも、身近にあるシンプルな気持ちっていうのは街関わらず人間に共通してると思うんですよね。
そう、摩耶山天上寺(神戸市灘区)の山門がボロボロになって、壊れて、市と寺が押し付け合ってるというのを読んだんです。それも、結局どっちかがもう少し責任持てばいいだけの話を押し付け合っているように見えてしまう。僕の妄想かもしれませんけど、数十年前の僕のおじいさんとかの世代っていうのはそんな押し付け合いにはならなかったんじゃないかなと思うんです。「これは私たちの大切な文化だ」と感じるベースがぐちゃぐちゃになってきてしまっているというか、今の日本人のなかでは「うちらの文化」っていうより先に「面倒くさい」とか「お金かかるし」っていうのが来てしまう。それは悲しいことですよね。
でも、「こうしなさい」って説教臭くするんじゃなくて、これを観たことでそういうことに対して自然とアンテナが向くようになってくれたらなあと思っています。

撮る時に気をつけたことなどはありますか?

僕も東京から越してきているんで、最初はちょっと「街」の気質が残ったまま撮っているんですね。最初はやっぱり面白がってるというか、当事者意識がない無責任な状態だったと思います。だけど、町の皆さんは生活の中で覚悟をもってやってらっしゃるんで、そういうものに毎日触れていると自分の中の軽薄な部分が取れて行くというか…。通いで撮っていたらまた違ったんでしょうけど、住んでいたので。
そこに葛藤があったんです。完璧に住人になったら全然映画として面白くないものになってしまうけど、「映画的にどうしたら盛り上がるのかな」とか考えていると町に馴染めない。この映画をどういう映画にして、どういうふうに残っていく作品にすれば町のためになるのかということを考えました。映画を観る人に対して「八女素晴らしいでしょ!?」という作品じゃ絶対広がらないし残る物にはならないので。

どのタイミングで映画の方向性が見えましたか?

最初、プロデューサーとは「プロジェクトXとか面白いですよね」なんていう話をしていたんです(笑)。でもやってみたら映画としては全然面白くなかったんです。ていうのが、八女の方って皆さんのんびりマイペースなんですよね。ぱっと見た感じには、歯を食いしばって葛藤している感じっていうのはまったくなくて。「これじゃいかんな」って言ってた時に、僕のおばあさんが死んだんです。
人が一人消える。目の前にいたひとが消えて、思い出になって…と言うのが、建物も同じかなって感じたんです。バブルの頃には平気で壊していたし、神戸は震災の時に不幸にも壊れてしまったりして建物が消えてしまうと、そこで過ごした思い出も写真を見たりしないと消えてしまいますよね。人が消える建物が消える、僕らの文化が消える…っていうことなのかなっていうことをおばあさんの死で感じたんです。それがちょうど撮影を始めてから1年ちょっとの時で、そこから方向性が固まったかもしれないですね。
移り住んですぐカメラを回して編集してっていう、住みながら、作りながらの2年間だったので、今こうやって話していることで、なんとなく自分のやってきたこととかが分かるような気がします。

最後に読者にメッセージをお願いします。

色々言いましたけど、僕はやっぱり町づくりの当事者ではないんですよね。映画の作り手としての一番の責任と言うのは、伝えるべきことを面白く受け取ってもらえる面白い映画にするっていうことなんです。だから深く考えずに、まずは「映画」を楽しみに観に来て欲しいなって思います。

写真

詳細情報

タイトル
『まちや紳士録』
上映期間
7月5日(土)~7月11日(金)
上映時間
各日10:30~
監督
伊藤有紀
イベント
◎「まち、たてものを見直す 神戸の場合」
日 時:7/5(土) 10:30の回上映後
会 場:元町映画館2F
ゲスト:中尾嘉孝さん(港まち神戸を愛する会 世話人/町並み研究者)
    松原永季さん(建築士/スタヂオ・カタリスト代表)
上映場所
元町映画館
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Kiss PRESS編集部

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